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- 2012.03.14 Wednesday
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第4章と次回第5章は、にーさんの別れの挨拶の物語で、今回が貴族、次回が悪友となっております。今回の物語は、水と油な昔馴染みの、彼ららしいお別れの物語です。
では、毎度おなじみ注意書き〜。
・ヘタリア二次創作です。
・東西設定を使っています。
・腐向けではありません。
・史実ががっちりからんでいますが、作者の妄想もがっちりからみます。苦手な方はご注意ください。
・誹謗中傷コメは絶対にしないでください。
では、物語をお楽しみください^^。
東と西の兄弟 第1部 第4章 別れの歌
オーストリアは、黙って話を聞き終えると、手に持ったまま冷めきっていたコーヒーを一口、口に含んだ。
午後のコーヒータイムをとろうと思っていたら、いきなりプロイセンが「話がある。」と訪ねてきたのだ。人の顔を見ればなにかと子供っぽいちょっかいをかけてくる彼が、いつになくまじめな表情をしているものだから、何事かと思って聞いてみれば、ドイツの分割統治の件で、ソ連側が統治している東側区域の代表として、ロシアのもとへ行く、しばらくは帰れないだろうから、こちらへ残していく弟――ドイツのことを頼む、とプロイセンは出されたコーヒーに一口も口をつけないままそう言った。
プロイセンは、黙ったままじっとこちらを見つめてくる。それは、まるで判決を待つ罪人のようだった。
「――いいでしょう。あの子のことは引き受けました。」
そう言って目を上げれば、プロイセンは驚いたようにきょとんとして、こちらを見つめている。
「何か不満なのですか?」
「いや、別にそういうわけじゃねえけどよ・・・」
「ではなんです?」
いつになく歯切れの悪いプロイセンに、オーストリアは不満げに眉を寄せた。
「止めねえんだな、と思ってな。」
「止めてほしいんですか?」
「そうじゃなくて、今までの誰とも、反応が違ったからよ。まあ、ロシアはともかくとして、アメリカはいい顔しなかったし、日本とイギリスは表立っては止めなかったけど止めたそうだったし、イタリアちゃんのお兄様にはトマト投げられるし、ヴェストとイタリアちゃんに至っては大泣きされたしな。」
あれはへこむぜー、かなり。そう言って彼は笑ったが、その声は乾ききっていて、自嘲的な響きを持っていた。
あのドイツが大泣きするとは、予想していたより重症ですね、とオーストリアは心の中でひとりごちた。まあ無理もない。ただでさえ、彼は大戦が終わった直後、プロイセンの行方がしれなかったときに、その罪悪感から神経性胃炎になったくらいだったのだから。
「貴方がそういう顔をしているときは、私が何を言おうと考えを翻す気なんかないでしょう。ならば、あなたの思うようにすればいいと思うまでです。」
「はあ?なんだよそういう顔って?」
「貴方があの子を・・・ドイツを『弟』にすると決めて、私に宣言した時の顔ですよ。」
『あいつは・・・「ドイツ」は俺の弟として、この俺が育てる!!てめえなんかに任せられっか!!!』
そう目の前でプロイセンが啖呵を切った日のことを、オーストリアは昨日のことのようによく覚えている。
プロイセンはドイツの兄になってからというもの、そのすべてをドイツに捧げていた。富も、権力も、国土も、自分が今まで得てきた戦術の全ても。
もともと、きちんとした国土を持っていなかったプロイセンは、領土を得ることに対して他の『国家』よりも貪欲だった。昔はそれをいやしいと思っていたが、今思えば、仕方のないことだったのだろう。自分たち『国家』にとって、国土とは己を形成する意義のなかで、最も重要であるといってもおかしくないものなのだ。
だが、プロイセンはそれすらもあっさりとドイツに譲り渡した。そして、彼が『亡国」となることを決めた時、誰もが、それでいいのか、と尋ねた。お前は、それでいいのか、と。その言葉にも、プロイセンは笑って答えるのみだった。
「いいんだよ。時代が望んだのは『俺』じゃない、『ドイツ』だ。あいつをこの世に存在させるためなら、俺なんかどうなってもいいんだよ。俺の存在意義は、あいつだ。」と――。
そう、プロイセンは、何よりドイツのことを思って行動しているのだ。だから――
「貴方が、ドイツのことを考えて決めたのなら、まあそう間違っていることはないでしょうから。反対するだけ無駄というものです。」
そう返すと、プロイセンは何も言わずに冷めきったコーヒーをひと息で飲みほして立ち上がった。
「んじゃ、俺もう行くわ。今夜、フランスとスペインが送別会してくれるんだっつーから。」
「そうですか――あ、少しお待ちなさい。」
いつもであれば、「さっさと帰りなさい!」とかなんとか言うはずなのに、今日に限ってオーストリアが呼びとめたのが不自然に思えたのか、プロイセンは首をかしげたが、足を止めた。オーストリアは近くの棚からレコードを1枚取り出すと、プロイセンに差し出した。
「これを、持ってお行きなさい。」
「これは・・・。」
それは、プロイセンがいまだに敬愛するプロイセン国王、フリードリヒ2世が、もっとも好んで演奏したフルート協奏曲のレコードだった。
「貴方に、貸しましょう。あくまでも貸すだけですからね!貴方がこちらに戻ってくるときに必ず返しなさい。言っておきますが、それはかなり貴重なものですから、ダメにしたら承知しませんからね!?」
「・・・・・・いいのかよ?」
「いらないなら、別にかまいませんよ?」
「いや・・・Danke、恩にきる。」
プロイセンは宝物を扱うように、大切そうにレコードを抱えた。
「ああ、それから・・・」
「まだあんのかよ!?」
げんなりとした表情になったプロイセンを無視して、オーストリアは続けた。
「あちらには・・・ハンガリーもいますから、彼女によろしく伝えてください。あと、あなたの彼女に対する態度はあまり良いものとは言えません。過去に何があったにせよ、もう少し彼女を女性らしく扱ってあげなさい。」
「あいつの態度しだいだな、そりゃ。ま、とりあえず伝えといてやるから、俺様に深く感謝しとけ・・・じゃーな、坊ちゃん。」
プロイセンはそう言って、オーストリアに背を向けて居間を出て行った。
プロイセンが部屋を出て行ったあと、オーストリアは黙ってその場に立ち尽くしていたが、しばらくすると思い切ったように居間を飛び出した。階段を駆け上がり、2回の音楽室へ飛び込む。大戦末期の、度重なる空襲から運よく生き残った、愛用のベーゼンドルファーのグランドピアノのふたを開け、すぐそばの窓を全開にする。見れば、プロイセンは門へ向けて歩みを進めていた。
ピアノの前に立ったオーストリアは、静かに目を閉じ、鍵盤に指を置いた。座っているような時間はない。楽譜を思い浮かべ、最初の一音を紡ぐ。外の彼に届くように、できるだけ、できるだけ大きな音で。彼が聴いていてくれることを願いながら。
ショパンの「別れの歌」。恋人との別れがもとになった、悲しく、それでいて激しい曲想。この曲であれば、自分の思いを伝えられる。
傷ついていない、はずがないのだ。だって、ドイツがプロイセンのことを想っているのと同じくらい、いや、それ以上、プロイセンもドイツのことを想っているのだから。どんなに強がっていようとも、ドイツと離れることは、彼にとって苦痛のはずだ。でも、プロイセンは絶対に、ドイツの、いや、自分たちの前でそんなそぶりは見せない。いや、見せようとしないのだ。たとえ、もしかしたらそれが永遠の別れになるかも知れなくても、プロイセンは笑って、弟に別れを告げるだろう。プロイセンという男は、そういう男だ。
だからこそ、オーストリアはこの曲を選んだのだ。音楽でしか、感情表現ができない自分にできる、彼への、せめてもの慰めになればいい・・・そう願いながら、オーストリアはピアノを奏で続けた。
最後の和音が部屋に響き渡り、「別れの歌」が終わった。オーストリアが大きく息をつくと、外から大きな拍手が聴こえてきた。どうやら、プロイセンは門を出ていなかったようだ。窓の外に目をやれば、プロイセンはまた門のほうへと歩き出したところで、そのままこちらを振り向かずに、ひらひらと左手を振った。
その姿が不意に歪んで、オーストリアは自分が泣いていることに気付いた。
「・・・まだ、私にもこんなものが残っていたのですね。」
そうつぶやくと、また涙があふれてきて、たまらずオーストリアはその場に膝をついた。
――いつか、いつかまたあの、1人楽しすぎる、意地っ張りで、でもさみしがり屋で弟想いな昔馴染みのために、今度は、「別れの歌」ではなく、「歓びの歌」を奏でられることができるように。
そう願わずには、いられなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――
以上、第4章でした〜。いかがだったでしょうか?鬱っぽくなる鬱っぽくなる言いながら、あんまりならなかったな〜と書いてみて思っています。
にーさんはお別れの仕方も用意周到というか、彼らしいやり方で進めました。『東』として六様のところへ行くことを伝えた順番は、ろっさま→メシマズ(世界のおにーさん)→マカロニ兄弟、祖国→√→貴族→悪友です。ろっさまに先に言ったのは、退路を断ってしまうためです。√に伝えた時には、もうすでに、なにがなんでもにーさんが行くしかないような状態になっていました。自分で考えてて、なんという策士なんだと思いましたよ、さすがに(笑)。
さて、いよいよ次回が第1部最後のお話になります。お楽しみに〜!
新しいPC、「シュヴァルツ・アルダー」(名前です)にも慣れてまいりました。
そういえば、今日は我らが祖国様のお誕生日でしたね。実にめでたいです。白米食べて(朝も昼もパンだったので)、お祝いしましょうかね。
さて、東と西の兄弟、いよいよ第1部の折り返し地点、3章に突入します。予定通りいけば、今月いっぱいかけて第1部を終わらせる予定なのですが、この分だと予定通りになりそうでほっとしています。
では、以下注意書きです。
ヘタリア二次創作です。
・東西設定を使っています。
・腐向けではありません。
・作中で、日本の原爆のことなどに触れることがありますが、政治的意図や中傷などではいっさいありません。そのようなコメントはしないでください。
・誹謗中傷コメントはしないで下さい。
・史実もがっちり絡みますが、作者の妄想もがっつり入っています。ご了承ください。
大丈夫ですか?では、第3章始まり始まり〜
東と西の兄弟 第1部 第3章 1945年のFrohe Weihnachten
世界中を巻き込んだ大戦が終わった年のクリスマス。ドイツは、読書を中断して、薄曇りの空から舞い落ちる雪を、フランスはアルザスにある小さな教会附属病院の病室からぼんやりと眺めていた。どうやら、今日はホワイトクリスマスになりそうだ。
見舞いに来ているイタリアが、窓辺に置かれたポインセチアの鉢植え――先日、アメリカが持ってきたものだ――に、コップで水をやりながら、なにかいいことでもあったのだろうか、鼻唄を歌っている。
「・・・ずいぶんと、楽しそうだな。」
声をかければ、ハッとしたようにイタリアが振り向いた。ふよん、と1本だけ飛び出ている髪の毛がゆれる。
「ごめんね、うるさかった?」
「いや、別にそういうわけではないが・・・何かいいことでもあったのか?」
「ん〜、そういうわけじゃないけど、だって今日はクリスマスでしょう?なんだかウキウキするじゃない。」
そう言ってイタリアは、ふにゃり、と力の抜けたような笑みを浮かべたので、つられて、ドイツも小さな笑みを浮かべた。イタリアが楽しそうに続ける。
「今日はねえ、ドイツにとっておきのプレゼント用意したんだよ。」
「とっておきの?何を用意したんだ?」
「ヴェ〜、それはプレゼントをもらってからのお楽しみだよ〜。」
いたずらっ子のようにイタリアが笑った時、病室のドアがノックされた。
「イギリスだ。入ってもいいか?」
「ああ、かまわない。」
ドイツが応えると、静かにドアが開いてイギリスが入ってきた。イタリアがピクッと震えたのは、まだ敵対していた時の名残が抜けないのだろう。
「よお、ドイツ。調子の方はどうだ?」
「ああ、まずまずといったところだな。わざわざすまない、こんな所へ足を運んでもらって・・・」
ドイツがそういうと、イギリスは肩をすくめて言った。
「気にすんな、任務のうちだ――ああ、そうだ。今日はお前らにいい知らせがある。」
イギリスの言葉に、イタリアもまっすぐに彼を見る。
「日本のことだが、年明けには退院できるそうだ。お前らに心配かけて悪かったって言ってたぞ。」
「本当なの、イギリス!?」
「ああ、今日の朝、向こうからの通信で聞いたからな。」
「よかったねえ、ドイツ!!」
「ああ、本当によかった・・・!」
イギリスが病室にきてから固まりがちだった2人の表情が、ほっとしたように緩んだ。
日本は5月にドイツが降伏してからも1人で戦い続けたが、8月、アメリカに新型爆弾を落とされたことがきっかけで降伏を受け入れ、敗戦を認めた。そんな日本のけがはひどく、見た目の割に年を食っているということもあり、一時は存在も危ぶまれていたほどだった。イタリアやドイツも、そんな彼のことをとても心配していたのだが、自分たちもあまり自由になる身の上ではない。そんな中でもたらされたこの知らせは、2人にとって喜び以外のなにものでもなかった。
「今年のクリスマスは、いいことずくめだね!!日本の退院も決まったし、ぷ・・・」
「イタリア!それはまだドイツには秘密だろ!!」
イタリアが、アッと言って口を押さえる。ドイツは、2人の態度に疑問を覚えた。
「どうしたんだ?さっきからおかしいぞ、イタリア?具合でも悪いのか?それに、イギリスも。」
「い、いや?別になんでもねえよ?」
「そ、そうだよ〜。おれ別にどっこも悪くないよ〜?」
ドイツの問いかけに、2人は不自然に目をそらす。やはり、どこかおかしい。ドイツの疑問がさらに深まった。と、その時。窓の方に視線をやっていたイタリアが、いつもの様子からは信じられないようなすばやさで窓を開け、下へ向かって叫んだ。
「プロイセン!何してるのさ、走っちゃだめだよ!!」
プロイセン。ドイツにとって、その名前は忘れられない、忘れようもない、兄の名前だ。確か、けがで遠方の病院に入院しているのではなかったのだろうか?なぜ、彼の名が今ここで呼ばれるのか、ドイツには皆目見当がつかなかった。どういうことなんだと、イタリアとイギリスに尋ねようとしたが、2人はそれどころではないらしい。
「んだと!?あのバカ走ってるのか!?」
「すっごい全力疾走だよ〜!!ど、どうしよう!?」
「ったく、まだけがが治りきっていねえってのに・・・!」
苦々しげに言ったイギリスは、スーツの袖をめくり上げて病室の入り口に向かって立った。
「ドイツ、とりあえずあとで事情は説明するからちょっと待ってくれ。とにかく、今はあいつを止めねえと・・・」
そう言いながら彼がスーツ飲むなポケットから取り出したのは――金色に光る星が先端に付いた杖だった。それを見たドイツは目をむき、イタリアが悲鳴を上げる。
「貴様、なんだそれは!」
「ヴぇーー!!プロイセンになにするつもりなんだよ〜〜!!」
「うおわっ・・・ちょ、離せこのバカ、別に何もしねえよっ!」
近年まれにみる本気を出したイタリアがイギリスに飛びかかり、2人はじたばたと暴れる。
「2人とも、病室で騒ぐな!!それにイギリス、何もしないならなぜそんな不可思議なものが出てくるんだ!?」
「だーかーらーっ!!別にあいつ自体にはなんもしねえっっつってるだろーが!!」
そうしている間にも、廊下をかけてくる足音と、「ヴェストおおおおおおーっ!!!」という大声が少しずつ近づいてくる。イギリスはなんとかイタリアを振り払い、ドアノブが回って声と足音の主――プロイセンが、
「ヴェストーー!!小鳥のようにカッコイイお前のお兄様だぜえーー!!」
と飛び込んでくるのとほぼ同時に
「ほあた☆!!」
と叫んで杖を振りかざした。
すると、病室に駆け込んでくるプロイセンの体を、突如として現れた十数個のユニオンジャック――英国旗柄のクッションが受け止めた。と同時に、プロイセンを追いかけてきたらしいスペインが、襟をつかんでプロイセンの動きを封じる。
「なにやってんねん、このおばかちん!!まだ肋骨1本くっついてへんのやろ!!」
「わ、バカお前そんなんヴェストに聞かれたら――」
「・・・なんだと?」
プロイセンはあわててスペインの口をふさいだが時すでに遅く、ドイツの細くすがめられた目が、彼を捉えていた。
「さて・・・。いったいどういうことなのか説明してもらおうか兄さん?」
数分の後、ドイツの病室はとんでもない威圧感が充満し、重苦しすぎる雰囲気に包まれていた。イタリアなど、すっかり縮みあがってしまっている。
ドイツの視線の先にはプロイセンが少し小さくなって椅子に座り、その後ろにはイギリス、スペイン、そして、スペインに遅れてやってきたフランスとオーストリアが座っていた。
「おれは、貴方がけがで入院している、とは聞いていたが、肋骨を折っていたなどとはひとつも聞いていなかったぞ?」
「あー、その、つまりだな・・・?お前に詳しい事情を説明しなかったのは・・・あれだ!ドクターストップがかかっててだな・・・。」
「ドクターストップ、だと?」
ドイツが首をかしげ、プロイセンの言ったことを肯定するようにオーストリアがうなづいた。
「それは本当ですよ、ドイツ。貴方はけがよりも何よりも精神的苦痛による神経性胃腸炎がひどかったので、ひどく動揺させてしまうようなこと――例えば、このおバカの容態ですとかね――を教えるのはしばらく控えてほしいと、担当の先生から言われていたのです。」
「そうそう。で、今日やっと、プロイセンがお前に合わせても大丈夫な程度には回復してきたから、こっちの病院に転院させてきたの。わかった?」
フランスが言い聞かせるように言って、ドイツの眉間に寄せられていたしわが少し浅くなった。
「そうだったのか・・・それで、具合の方はどうなんだ?兄さん。」
「おうよ!もうすっかり元通りだ――」
プロイセンが胸を張ってそう言った瞬間、後ろの4人が目を向いて叫んだ。
「何あほなこと言うてんねん!!!」
「何を言ってるんですか、このおバカさんが!!!!」
「どこが元通りだ、どこが!!」
「何言ってんのプロイセン!!」
おそらく、ドイツの目がなければ誰かが手を出していてもおかしくない剣幕で怒鳴られ、プロイセンは身を縮めた。
「そんなに怒鳴ることねーだろお!?肋骨折れてるったって、1本だけじゃねえか!!」
「他にも鎖骨や左腕が折れていた上に、その肋骨が肺に突き刺さりかけていたのはどこの誰だと思っているんですか、このおバカさんが!!」
「おまけに出血多量で輸血が必要になってたでしょ!!」
「輸血したらしたで血が足りねえ騒ぎになって、オーストリア呼ぶはめになったのはお前だろうが!!」
「しかもそのあと3カ月も意識不明だった上に、その左腕まだリハビリ中やんか!」
「ちょ、ちょっと!ドイツの顔色が悪いよ〜!!」
イタリアの悲鳴に近い声で、ドイツの顔を見やった5人は、自分たちの失態に気づいた。
ドイツはすっかり血の気が引いていて、目は焦点が合わず、わなわなと手を震わせていたのだ。
「お、おい、ヴェスト・・・?落ち着けって!!俺はもう大丈夫だから!な!?」
プロイセンがあわてたように、うつむいてしまった顔を覗き込んで声をかける。と、ドイツの唇がかすかに動き、言葉を紡いだ。
「・・・ない。」
「ん?」
「すまない・・・。」
プロイセンがハッとしたように動きを止め、沈黙が室内を支配した。
ドイツは、虚ろな目のまま続けた。
「俺が、貴方に東部戦線への出向命令が出た時にもっと強硬に反対していれば・・・」
「ヴェスト。」
「上司が、貴方を巻き込むと言ったときも・・・」
「ヴェスト、もう言うな。」
「おれが、もっと強かったらこんなことには・・・」
「もういい、ヴェスト。」
「おれが・・・おれさえいなければにいさんは――」
「それ以上言うんじゃねえっつってんだろ!!!」
プロイセンの手が、ドイツを絡め取るようにして抱きしめ、言葉を封じた。
「頼むから、それ以上、言ってくれるな。頼むから・・・。」
ドイツの背中にまわされた、プロイセンの手が震えていた。ドイツの目から、つうっと涙が伝う。
「戦場のけがは、全て己の責任だ。昔、そう教えたろ?」
幼子をなだめるように、プロイセンはドイツの目を見て言った。
「でも、でも・・・。」
「大丈夫だ。利き手が使えねえからな、多少不便はあるが、リハビリ次第でなんとでもなる。それに、鎖骨も肋骨も人体の中じゃ折れやすい骨だからすぐ折れんだって言っただろ?このくらい、屁でもねえよ。」
そう言ったプロイセンはドイツをもう一度抱きしめると、ポンポンと優しく背中をたたいた。
「それとな。俺は、お前を守るために、生まれてきたんだよ。兄貴が弟を守んのは、義務であり責任だ。俺は、俺の義務を果たしたまでだ。お前が責任を感じることじゃねえよ・・・だから、自分がいなければなんて・・・そんなこと、二度と言うな。」
「・・・ja」
「よし、いい子だ。」
プロイセンはニカッと笑って、ドイツの頭をなでた。
「でも、ごめんな。心配かけて・・・。さっきも言ったけど、今日から俺、こっちの病院に転院してきたし、病室も頼んで隣同士にしてもらったからよ。これからは、そばにいてやるからな!」
「ああ・・・ありがとう。」
ドイツは涙をふいて、プロイセンを見つめると、嬉しそうに――それは、思わずフランスやイギリスが目を疑うほど――優しそうにほほ笑んで、言った。
「兄さん。」
「なんだ、ヴェスト?」
「おかえり、兄さん。」
それを聞いたプロイセンも、花がほころぶように破顔した。
「ああ――ただいま!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上、第3章でした〜!いやあ、後半ドイツさんがすごい勢いで鬱になっていった時はちょっとあせりました。まさか、兄さんの状態を聞いてあそこまで落ちていっちゃうとは思わなくて・・・・なんとか連れ戻してくれたにーさんに感謝です・・・。まあ、そのあとこれ腐向けかよってほどブラコンな兄弟ができあがっちまいましたけどね(笑)。
注意書きにも書きましたけど、これは腐向けのお話ではありません。脳内妄想は好きにしてくれちゃって構いませんけどね^^。ちなみに、にーさんの左腕はきちんと完治しますのでご安心を。それから、イタちゃんが言っていた「とっておきのプレゼント」とは、もちろんにーさんのことです。
この時点で、にーさんは自分が『東』になること、ろっさまとともに行かなければならないを知っています。にーさんが、ろっさまに出した条件が、弟が回復するまで待ってほしい、そして、すべては自分の口から伝えさせてほしい、それだけでした。ちなみに、この時点で枢軸メンバーはにーさんがそういう身の上であることを知りません。そこはかとなく気づいている人はいるかもしれませんけどね。
さあて、次回からはとんでもない鬱展開が始まりますよ!!皆さん準備はいいですか!?もう3章の時点でギブアップな方は、一応3月までお待ちください。3月からは、もう1本のコメディタッチの連作、「W小学校職員室日誌」をスタートさせる予定ですので!
では、第4章をお待ちください。
さあ、いよいよ満を持して始まりました、今年の連作です。
今回の連作の舞台は、1945年5月〜1990年10月です。つまり、ドイツのWW2敗戦から、東西ドイツ統一までの物語、ということになります。
今日から始まる第1部は、敗戦直後の兄弟や彼らをめぐる人々(国々?)のお話です。
以下、注意書きです。最初のお話なので、この連作を通しての注意書きとなりますので、結構長くなるかもですが、史実ががっちり絡んでくるので、よく目を通しておいてください。
・この物語はヘタリア2次創作です。
・東西設定を使用しています。
・腐向けではありません。
・史実ががっちり絡んできますが、作者の妄想もがっちり入ってます。きちんと調べた上で書いていますが、解釈その他いろいろ違うかもしれません。そこらへんはご了承ください。
・『国家(ヘタキャラ)』の意志≠上司の意志なキャラが結構出ます。
・人名と国名が混在する場合があります。苦手な方はご注意ください。
・芋兄弟が時折鬱になったりします。苦手な方はご注意ください。
・流血表現など、暴力的な描写があるかもしれません。苦手な方はご注意ください。
・ww2時のドイツの思想や、東独について言及したりするシーンがありますが、誹謗中傷や政治的意図はいっさいございません。ご了承ください。
・誹謗中傷コメ等は絶対にしないで下さい。
とりあえず、今はこのくらいで。必要であれば適宜付け加えていきます。
東と西の兄弟 第1部 2人のオワリ、1人のハジマリ
第1章 瓦礫の街で
瓦礫だらけのベルリンの街を、アメリカ、イギリス、フランスを乗せた軍用ジープが走っていた。
本来、「国家」の化身である彼らは、軍用ジープなどには乗りはしない。だが、いつも彼らが乗っているような車――俗に言う高級車、というやつだ――では、到底走れそうになかったため、この車になったのだ。そうしなければならないほど、ベルリンの街は破壊されていた。
彼らが向かっているのは総統官邸。そこにある書類の押収が、今日の仕事だった。といっても、この街の様子では、資料と言ってもろくなものが残っていないだろう、ということは火を見るより明らかだった。
「まだ着かないのかい?おれもうアイス食べ終わっちゃったんだぞ!!」
「おまえなあ、これから仕事だってのにそんなもん食ってんじゃねえよ!まったく、これだからガキは困るんだよなあ・・・。」
「うるさいんだぞイギリス!ヒーローにアイスは不可欠なんだよ!!」
「おまえ、ちったあ我慢てもんを覚えろよ!」
ぶすくれるアメリカを叱りながら、イギリスは痛くなり始めた腰をさすった。
降伏したとはいえ、ここは敵国の首都。連合軍をよく思わない国民や、ドイツ軍の残党などの襲撃をさけるため、ジープはけっこう遠回りをしている。乗り心地の悪いジープに長時間ゆられていれば、腰も痛くなるし、アメリカの文句にも一理ある、と言えなくもない。
そのとき、イギリスは隣に座るフランスに目をやった。
普段であれば、真っ先に乗り心地の悪さに対して長々と文句を垂れているはずのこの男が、さっきから――いや、連合軍ドイツ司令部を出発してからなにもしゃべっていない。自分たちが乗っているジープの荷台にはられた天幕の隙間から、食い入るように外を見ている。
「フランス。」
「・・・・・・・・」
「フランス?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・おい聞いてんのか髭!!」
「・・・ああ、悪い。なんだ、イギリス?」
やっとこちらを向いたフランスの目の下には隈が出来ており、目も真っ赤に充血していた。いつもなら、「なんだとこの元ヤン!!おにいさん本気で怒ったよ!」とかなんとか言ってくるはずなのに、反応も鈍い。
こりゃ重症だな、とイギリスは心の中でつぶやいた。
無理もないのかもしれない。フランスは、彼とは仲がいい方で、なんだかんだでつるんでいたのだから。
自分だって、話を聞いた時には驚いたのだ。
彼が――プロイセンが、ドイツを残して行方不明になっているだなんて。
話は、数日前にさかのぼる。
「それでは、ドイツの無条件降伏を受け入れる。たった今から、この国はおれたちの支配下に入ってもらう。いいね、ドイツ?」
ドイツのサインが入った降伏証明書を受け取りながら、アメリカが確認した。いや、確認と言うより、それは宣言のようだった。
ドイツは、何も言わず、こくりとうなづいた。彼は満身創痍で、いくら「国家」が常人より丈夫だからといっても、立って歩いているのがむしろ不気味に思えるくらいの状態だった。もちろん、3人ともドイツにまず、きちんと治療を受けさせ、療養させようとしたのだ。だが、ドイツはそれを頑として拒んだ。
「負けたのなら、それによって生じる雑務がある。それを放棄することはできない。」と言って、実際そのとおり、彼は敗戦処理の雑務を完璧にこなした。
しかし、それも今日、この降伏証明書が出たことで、ようやくひと段落したのだ。
「なあ、ドイツ。君、病院へ行った方がいいんだぞ。どうみたって、君は重症だよ?ほんとは、そうやって立ってるのも辛いんじゃないのかい?」
「・・・たいしたことは、ない。」
「うそつくんじゃねえよ。今のお前に必要なのは適切な治療だ。幸いっつったらあれだが、お前の仕事はもうないのと同じだ。今から病院行くぞ。たぶん入院とかになるだろうから、荷物まとめてこい。なんだったら、おれたちも手伝ってやる。」
「わかった・・・では、荷物をまとめてくる。」
そう言って部屋を出て行こうとしたドイツを、「ちょっと待てよ!」と呼びとめた者がいた。フランスだ。
「あのさ、おれこっちに来てお前に会ってからずっと気になってたんだけど――お前の兄貴、どうしたんだよ?」
イギリスもアメリカもはっとした。
そういえば、ドイツの兄、プロイセンの姿をこっちに来てから見かけていない。というより、弟がこんな状態なのに、あのプロイセンがそばについていないこと自体が、とても不自然なことに、ようやく2人は気づいた。
「なあ、ドイツ。プロイセンは、今、どこにいるんだ?てか、お前がその状態なのに、プロイセンなんも言ってこないの?あいつの性格だったら、お前の仕事全部肩代わりとかしそうなもんなのに。」
フランスの問いかけに、ドイツはゆるゆるとうつむきがちな顔をあげた。うつろな青い瞳がこちらを向き、唇がかすかに動いた。
「・・・ない。」
「はあ?聞こえない、なんて言っ――」
「わから、ないんだ・・・」
はっきりと発せられたその言葉に、3人は目を見開いた。
「ど、どういうことだよ、それ・・・。」
「・・・兄さんは、去年の暮れに、東部戦線に送られて、なかなか連絡がつかなくなって・・・今、どこでなにをしているのか・・・生きているのか、死んでいるのかすら・・・わから、ない、んだ・・・。」
そう言い終えた瞬間、ドイツはその場に崩れ落ちた。まるで、操り人形の糸が切れたかのように。
ドイツを入院させた3人は、すぐさまプロイセンの足取りを追った。
そうして分かったのは、焼土作戦決行と同時に弟が倒れたとの報告を受けた彼は、すぐさま相手をしていた敵軍の主力部隊を壊滅させると、戦線を離れベルリンへ向かったこと。
そして――ベルリンへ来て真っ先に、総統官邸に足を向けたこと。それだけだった。
彼が何をしようとしたのか、想像するのはたやすいことだ。何よりプロイセンは、その身の全てを弟のドイツに捧げていたのだから。
おそらく、焼土作戦の停止を求めに言ったのだろう。
そうしようとした彼が、どうなったのか。
それを想像するのも、難しいことではない。
ジープは、総統官邸の裏にさしかかった。
もうすぐこの腰の痛みから解放されると思えば、すこし気も楽になる。
と、そのとき。
「―――ちょっと止めろ!!」
フランスが声をあげる。急ブレーキがかかるのと、フランスが天幕をめくり上げて道路に飛び出すのがほぼ同時だった。
「ちょ、おい、フランス!?」
「なんなんだいいったい!?」
荷台から身を乗り出したイギリスと、バランスを崩したアメリカの声にこたえず、フランスは瓦礫の中から何かを引きずり出した。
紺青の軍服、銀の短髪をした青年が、そこに引き出された。
「プロイセン!?」
思わず、イギリスは声をあげた。
「プロイセン、プロイセン!しっかりしろ!おいってば!!」
フランスはバシバシとプロイセンの頬を叩いている。どうやら意識がないようだ。
イギリスもあわててジープから飛び降り、二人の元に駆け寄る。アメリカもあとから続いたのが、気配でわかった。
間近でプロイセンを見たイギリスは、言葉を失った。
そこに横たわった青年は、プロイセンであってプロイセンでないように思えたからだ。
イギリスの知るプロイセンは、プライドが高く、居丈高で傲慢で、「お前その自信どっから来るんだよ?」と言いたいほど(実際、かつて共に戦った時には言った)俺様で、それらが全身からあふれ出ているような、今、自分の隣で同じように言葉を失っているアメリカと、ある意味同じように、生気に満ちたヤツだった。
しかし、今目の前にいるプロイセンは、血の気がなく、ただでさえ色の白い顔をさらに白くし、かつて、戦場で見るものを恐怖に叩きこんだ真紅の瞳をもつ目は閉じられ、そしてなにより――まとっている軍服は、色のせいでわかりにくいが、大量の血液にまみれていた。
「・・・弱いけど、まだ脈がある。急いで運べば、助かるかも・・・」
手首にふれていたフランスが、やっと顔をあげてこちらを見た。その瞳は、どうする?とは聞いていなかった。
イギリスは、軽くため息をついて胸元の無線のスイッチを入れた。
「こちらカークランド!ベルリン総統府裏で、行方不明だったドイツ陸軍東部戦線指揮官のギルベルト・バイルシュミット特務士官を発見、なんらかの理由で重体になっている。おそらく緊急手術が必要だ、医務班は受け入れ態勢を整えていてくれ!」
口早にそう告げると、イギリスはアメリカを振りかえった。
「アメリカ、悪いが――」
「書類の押収は、明日にしようじゃないか。」
「アメリカ・・・。」
フランスがアメリカを見つめる。アメリカもうなづく。
「今は、彼を助けることが先決だ。急ごう。」
言うなり、アメリカはジープにかけ戻り、運転席に何事かを伝え始めた。予定変更を伝えているのだろう。
フランスが、プロイセンを横抱きに抱きあげた。引き返してきたジープに乗りこみ、もと来た道を走る。
「なあ、フランス。」
「なんだよ?」
「こいつさ、お前に『お姫様抱っこ』されたって聞いたら、なんて言うだろな?」
「・・・決まってんだろ、んなこと。『俺様がそんな無様なことするかよ!!』って全力否定だな。」
「言ってやろうぜ、こいつが起きたら。」
「そりゃいいねえ、おにいさん乗ったよ。できたら、ドイツの目の前で言ってみるか?どんな顔で否定するのか、見ものだな。」
「だな。」
帰る道中、そんな話をした。横たわった、まるで死人のような、フランスにとっての悪友、イギリスにとっての昔なじみの存在を挟んで。
自分たちの方がよっぽど、血の気の失せた顔をして――。
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東の西の兄弟、第1話でした。新春特別座談会でメリカがいろいろ暴露しそうになるんで大変でしたよ〜。
この作品自体を書いたのは、今からちょうど1年前です。読んでいた作品で、芋兄弟の上司は終戦間際、焼土作戦の指示を出していた、ということを聞いて突発的に書きあげたものでした。
焼土作戦は、言ってしまえば自分で自分たちの領土に火を放って、相手の侵攻を遅らせたり、あるいは物資や兵器などを敵に利用されないようにする作戦です。国土に火を放つのですから、おそらく、√にとってかなりのダメージになるだろうと思います。
実際、どんな意図があって彼がこの作戦の決行を命令したのかはわかりませんが、この作品では、「自分の思うままの国を作ろうとしたが、それに失敗して『国家』のことを見捨てた』ため、焼土作戦を命令した、ということにしました。
それから、この連作では国名と人名が混在していますが、人名の扱いはいわゆる『便宜上の名前』、というやつです。彼らが例えば銀行で口座を作ったり、職場の名簿みたいなものに名前を載せたりとかする時に、この人名を使います。ですから、今回の話で言えば、にーさんの職場での肩書は『ドイツ陸軍特務士官 ギルベルト・バイルシュミット』なわけです。もちろん、職場の部下とか家の近所の人とか、近しい人は彼らの正体を知っていますけどね。ちなみに、各国政府の上層部では、この人名はある種の暗号みたいな扱いをされています。
しょっぱなから、オレ設定が火をふいております。実にすみません。
さて、瀕死の重傷を負ったにーさんはいったいどうなってしまうのか!?次回までお待ちください。